ロシアによるウクライナ侵略の早期終結を掲げるトランプ次期米大統領は1月20日の新政権発足後、本格的にロシアとウクライナに停戦を働きかける見通しだ。仮に一部のウクライナ領の実効支配をロシアに認める条件で停戦が成立すれば、ロシアは一定の「勝利」を収める形となる。ただ、その場合でも、過去約3年間にわたる侵略戦争でロシアが払った代償は地政学、軍事、経済の全ての面で膨大で、差し引きで言えば大赤字が確実だ。
しかし、仮にロシアが一部ウクライナ領の支配という「利益」を得たとしても、そのために被った損失は多岐にわたる。
その一つは地政学的損失だ。ロシアは早期にウクライナを降伏させることに失敗し、軍事大国としての威信に傷が付いた。また、従来は中立を維持していた隣国フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を招き、露欧間の戦略海域であるバルト海は「NATOの海」と化してしまった。
ロシアはウクライナ侵略戦争に専心した結果、旧来の「勢力圏」も相次いで喪失した。
23年9月、南カフカス地方の旧ソ連構成国アゼルバイジャンが、隣国アルメニアに実効支配される係争地ナゴルノカラバフの奪還作戦を行った。ロシアはアルメニアと軍事同盟を結んでいるが、ウクライナ侵略戦争で余力がないためにアゼルバイジャンを止められず、アルメニアの敗北を容認せざるを得なかった。この結果、アルメニアはロシアに不信感を募らせ、ロシアとの同盟関係を事実上停止した。
24年12月には、ロシアを後ろ盾としてきたシリアのアサド政権が反体制派の攻勢を受けて崩壊した。ロシアがシリア国内に租借してきた海軍基地と空軍基地の先行きは不透明になった。シリアの新政権が両基地の租借契約解除に動いた場合、ロシアは地中海地域に持つ唯一の軍事拠点を失うことになり、軍事的影響力の低下は避けられない。
ウクライナ侵略に伴ってロシアが被った軍事的損失も膨大だ。ロシアは自軍の損害の全体像を公表していないが、米欧諸国やウクライナ、専門家らの分析を総合すると、戦死者だけで少なくとも10万人を超えているとみられる。負傷者はその数倍に上る見通しだ。
ロシアが受けた経済的損失も大きい。ロシアは侵略で欧米諸国などから大規模な経済制裁を科され、先進技術のサプライチェーン(供給網)から切り離された。
ロシアの国内景気は軍需生産の拡大で活況を呈し、賃金も上昇しているが、その反動としてインフレが加速している。露中銀によると、24年のインフレ率は9%を超える可能性がある。
ウクライナ侵略がどのような形で決着しようと対露制裁は続く公算が大きい。現在の露経済を支える軍需産業も消耗品の武器・弾薬を製造しているのであり、富の蓄積にはなりがたい。
ある露経済の専門家は「停戦後、ロシアが平時の経済に戻る際にはハードランディングが起きる可能性が高い」と予測した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3b3037393515a1f959b0b...
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