https://www.yomiuri.co.jp/world/20251001-OYT1T50013... パリ市内外のモスク9か所に豚の頭、ロシアが宗教対立あおり分断工作か…フランスを「欧州最大の敵」
ウクライナへの軍事支援を続けるフランスでロシアによるとみられる社会の分断工作が相次いで発覚している。パリ市内外の9か所のモスク(イスラム教礼拝所)で9月9日、イスラム教徒が不浄とみなす豚の頭部が置かれる事件が発生し、セルビア人実行犯が逮捕された。露情報機関が宗教対立をあおって混乱を引き起こそうとした疑いが強まっている。
一連の事件の背景には、ロシアが「フランスを欧州最大の敵とみなしている」(ティエリー・ブルクハルト前仏軍統合参謀総長)ことがあるとみられる。マクロン仏大統領はロシアのウクライナ再侵略を防ぐ「安全の保証」の議論を主導しており、ウクライナ駐留部隊の派遣も提唱しているからだ。
パリ南郊モンルージュのモスクの管理人ナセル・ライメッシュさん(60)は「反イスラム主義者の仕業に違いない。大騒ぎになると直感した」と9日の出来事を振り返った。朝の礼拝でモスクに来ると、入り口に豚の頭部があるのに気付いた。ライメッシュさんは近隣トラブルを避けるため、集まった信者を慌てて中に誘導した。
しかし、騒ぎは拡大した。モンルージュだけでなくパリ市内や近郊の8か所のモスクでも同じ日に豚の頭部が発見された。仏捜査当局が扇動の疑いなどで捜査に乗り出し、29日にはセルビア警察が同国で実行犯11人を逮捕した。セルビア内務省の発表によると、実行犯らは5月にもパリでシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)などを汚す事件を起こしており、外国の情報機関の指示を受けた首謀者が逃走中という。
仏捜査当局が注目するのが過去の事件との類似性だ。2023年10月にパリ市内の建物にユダヤ人を象徴するダビデの星が落書きされたほか、24年5月には、ユダヤ人虐殺の犠牲者を追悼する「ショア記念館」に大量の赤い手形が残されていた。パレスチナ人らがイスラエルへの抵抗の象徴として使うシンボルで、パレスチナ自治区ガザで軍事作戦を続けるイスラエルへの抗議をアピールする狙いだったとみられる。いずれの事件でも露情報機関が東欧出身者を実行犯に雇っていた疑いがある。
仏首相府は、今年7月発表の「国家戦略レビュー」でこれらの事件を例示し、「欧州によるウクライナ支援に絡んで、ロシアはフランス社会を分断させるための様々な工作を仕掛けている」と指摘した。
フランスには、宗教対立を扇動しやすい事情がある。
米調査機関ピュー・リサーチ・センターによるとフランスにはイスラム教徒600万人、ユダヤ教徒46万人が居住する。いずれも欧州最大規模だ。モスクでの事件の翌10日には、仏政府の緊縮財政に反対する市民の抗議デモが全土で行われており、これに便乗して混乱を助長させようとした意図は明白だ。
仏政府も危機感を強め、対策に乗り出した。昨年7月にはロシアの工作阻止を狙った「外国介入阻止法」を施行した。外国勢力の介入による犯罪行為に対しては条件付きでネット監視や盗聴などの捜査手段を用いられるようにし、厳罰化を図っている。
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